2010年12月5日日曜日

イントロ

「あー、授業たりぃ」
 政宗は前髪をかきあげて、ため息をつくように言った。寝起きのせいか、機嫌が悪そうだ。
「たりぃって……」
 それを横で見て慶次は小さく笑った。
「だからこうして授業抜け出して屋上で昼寝してたんだろ?」
「ha!授業は今日だけじゃねぇんだ。これから毎日毎日続くんだぜ。わかるか!?everyday!!!」
「わっ!知ってるってそんなこと!そんなにまくしたてんなって」
 慶次は両手を突き出して政宗を押しとめた。
―――やっぱコイツに頼まない方がいいかも……
 ここは学校の最上階の屋上のさらにひとつ飛び出した場所。貯水タンクが規則的に並んでおり、その間の、教室の4分の1ほどのスペースに政宗たちは座っていた。少し視線を落とせば、体育の授業でバレーボールをやっている生徒たちや、通学路のさびれ気味の商店街が一望できた。
「しっかし、こんなところがあるなんて、なんでもっと早く教えてくれなかったんだよ」
 慶次はあぐらをかいて「なあなあ!」と政宗に言い詰めた。政宗は貯水タンクを背もたれにし、片膝を立てたまましれっと答える。
「こんなにセンコウに見つかりにくい絶好のpositionだ。誰にも知られたくなくて当然だろ。」
「なるほど……」
 確かにこの場所は下から見ると、人がいることは目視しづらい。先生に見つからないように気を張ることなくすごせるだろう。加えて、大きな貯水タンクで暑い日差しもさえぎられ、時おり心地良い風も吹いている。
「たしかに、他のやつに知られちゃ、奪い合いになっちまいそうだもんな!」
「ま、それもあるが……」
 政宗は苦いものを口にしたような顔をした。
「センコウ贔屓の連中に知られたら厄介だろ」
「あぁ、生徒会……とか?」
 『生徒会』と口にする時、慶次は一瞬複雑そうに顔を歪めた。
「それもあるが、……俺にとってはうちの学級委員長に見つかる方がめんどくせぇ」
「?……あ!政宗のクラスの学級委員長ってたしか!!」
 慶次が楽しいおもちゃを見つけたように話し出した時、
キーンコーンカーンコーン
4時間目の終了をつげるチャイムが会話を止めた。
「っと、lunch timeか。話があるんならさっさと言いな。学食混んじまうだろ」
「あぁ、そうだったそうだった。えーっと、どこから話そうかなぁ……」
「早くしな。長くなるんだったら、俺ァもう行くぜ」
 立ち上がった政宗に慶次はあわてた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!実はこないだかすがちゃんがさぁ―――」

 不意に、爆音のような、けたたましいエレキギターが、屋上に響き渡った。

 いや、屋上だけではない。校内にいる生徒達全員が、なにが起こっているのかとキョロキョロしている。

 ソレを見つけることができたのは、何百人といる生徒たちの中の、たったふたりだった。

「なっ……」
「ありゃぁ……」

 屋上の真ん中、まるで、ここが世界の中心だ!とでも主張するかのように、制服のチェックのスカートを揺らしながら、ひとりの少女が、真っ赤なエレキギターを響かせていた。

 鼓膜が痛いほどの強い音だったが、不思議と耳障りではなかった。政宗も慶次もアーティストのライブには行ったことはなかったが、
―――うまい……!
それだけはわかった。

 一定のリズムが繰り返される曲。最後に、短く連続した音を鳴らし、ピタッと少女は手を止めた。どうやらそこでこの曲は終わりらしい。
 空に向かって思いっきり音を響かせた彼女は満面の笑みを浮かべた。残暑の晴れた空に似合う、ひまわりのような笑顔だった。
「っ……」
「おっ……」
 少女はひたいの汗を手の甲でぬぐう。が、その拍子に今まで自分の死角にいたふたりの男子生徒の影に気付いた。驚いて即座に、体ごとそっちを振り返る。
「あ……あっ………。」
「よぉ!あんたさっきのギターすご―――」
 慶次が声をかけようとした。途端
「い、イヤーーーーー!!!!!」
顔を真っ赤にして、ギターだけはしっかりかかえたまま校舎内へ続くドアにむかって走り、重いそれを勢いよく開くと、そのままその中へと消えてしまった。
「あっ、おい!!」
 慶次はパイプのようなはしごをすぐさま降りて追おうとしたが、完全に見失ってしまった。
「Hey!慶次、あの女、お前の知り合いか?」
 後からはしごを降りてきた政宗に、慶次は「いいや」と首を横に振った。
「はじめてみたよ。どこのクラスの子かなぁ!」
「Ah?たぶん後輩だろが……お前なんでそんなにうれしそうなんだ?」
「実はさ!さっきも話そうと思ってたんだけど―――」

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